京鹿の子絞

今回、京鹿の子絞の括り師である川本和代さんを取り上げさせて頂いた。 川本さんは8歳の時から絞りの括りを70年余り続けてこられ、後述の本座鹿の子の括り師としては唯一人の存在であり、国指定の伝統工芸士の資格を持ち、瑞宝単光章の叙勲を受けられている。

京鹿の子の絞は、途中で絞り手が変わると力加減によって粒の大きさや形が微妙に変わってしまうため、始めから終わりまで同じ職人が一人で括らなくてはならない。 総絞りのきものだと 絞り粒の数は約15万粒、1年以上かかる作業になるため、職人は体調管理にも気を配らなければならず、高齢の職人さんにはかなりの重労働となるものである。  絞りの職人さんはどんどん減ってきているが、幸いにも川本和代さんの場合は、娘さんとお孫さん達が技術を継承されており、お孫さんは五代目の括り師となるそうだ。

 

1 京鹿の子絞(京鹿の子絞)   絞り染は、7世紀頃にインドから伝わり、17世紀には「かのこ」として広く愛用された絞り染めの技法である。  絹織物の生地に多種のくくり技法と染め分け技法を駆使して複雑多彩な模様を染める技法だ。  京鹿の子絞には疋田絞り(ひったしぼり)、一目絞り、傘巻絞り、帽子絞りなど、絞り方によってさまざまな種類がある。

その原型は奈良時代にさかのぼり、江戸時代以降に本格的に発展し、現在でも主に和装向けの高級品として流通している。  特に京都で生産される絹の布に鹿の子を施した「京鹿の子絞」は、昭 和51年(1976年)に国から伝統工芸品に指定されるほどの価値を持っている。  絞りの作業は非常に手間がかかり、総絞りのような豪華な模様は江戸時代には規制されるほどのものであった。

2 本疋田絞り(ほんびったしぼり)   本疋田絞りは、京鹿の子絞の技法の一つである。  絞りの箇所である粒を型紙で彫り、それを生地に青花(露草の花の絞り汁)を使って写したものを目印にして絞括していく。  絞る際に使われる糸は甘撚りの糸を特注したもので、生糸22本を束ねて使用している。 模様の絞る箇所を一つつまみ出して2つ折り、更に折って4つ折りにし、唾で湿らせた括り糸で粒を巻き上げ、更に粒の最下部を2回締める。  糸を締める際にパチンと音がするが、これは手括りであることを示す特徴的な音でもある。  使用する道具は括り糸(絹糸)と自分で作った紙の指貫に自らの指10本である。大きな道具を使わずに指だけで粒を一粒ずつつまみ出して巻いていくのが本疋田絞りだ。本疋田絞りは、糸を生地に絞る際に細かい粒を作り出すため、非常に繊細で時間のかかる作業である。  総絞りの場合、一尺に基本45筋、一反(約37.88㎝)の生地に十五万個の粒を一つ一つ布目の45度の方向(右下がり)に絞り、1年以上の時間が必要とされている。  高齢の職人さんも含めて括り人は限られており、現代では数人しか存在しないと言う。

3 本座鹿の子(ほんざかのこ) 本座かのこは疋田絞りの原点になる技法で、絞る箇所を表す型の代わりに、模様の輪郭線だけを描いた白場を手加減だけで絞る技法だ。  江戸時代までの絞りは主に本座かのこが使われていましたが、明治以降には疋田絞りが主流となり、本座鹿の子を括る職人はほとんどいなくなってしまい、現在では川本さんただ一人この技術を伝承しておられると言う。